アーツ千代田 3331では、区内で行われる重要な祭礼行事「神田祭」「山王祭」の時期にあわせ、地域の歴史や文化を紐解き、その魅力を発信する特別企画展を2013年より開催してきました。
監修者の方々や地域の皆様のご理解と多大なご協力のもと、展覧会やイベントを企画・制作し、神田祭、山王祭が執り行われる際には、その様子を写真や映像で記録するなど、スタッフ一同この活動に取り組んで参りました。
本サイトでは、当時展示した歴史的資料や氏子町会が保存・伝承する道具、町の風景や人々を活写する絵師の作品などを改めてご紹介します。これまでの展示やイベントを振り返りながら、江戸から東京へ連綿と受け継がれてきた伝統、人々の暮らしや生活文化の変遷など、まちの歴史や魅力をさまざまな角度からお楽しみ頂ければ幸いです。
*山王祭が行われる2020年は、「アーツ千代田 3331 特別企画展『山王祭と江戸東京 - 坂道を行列がゆく町』」(仮題)を 開催する予定でしたが、コロナウイルス感染拡大防止の観点から実施を見送り、2022年初夏に延期する事と致しました。
江戸時代から現在まで隔年で行われている神田祭・山王祭は、古くは将軍の上覧のある「天下祭」として政治的に大規模に行われ、明治・大正・昭和・平成、そして令和と、その形式や社会的な役割を変えながら、東京都心部のシンボル的行事として進化し続けてきました。近年では祭礼を体感することの意義が一定の理解を生んで巡行の参加者が増え、さらにそのデザインやパフォーマンスにも関心が寄せられ、企画が充実してきています。このような動向に対応するかたちでアーツ千代田 3331が両祭礼を展示で取り上げる試みは、地元外神田ばかりではなく、内神田・日本橋・京橋・番町・麹町といった東京の中心部の人と町を結びつける効果をもたらしています。それと同時に、祭礼は地域そのものを知り再発見するまたとない機会でもあることから、しっかりと地域に根付いてきたアーツ千代田 3331の取り組みは、今後も従来の地域博物館のなしえなかった部分を照らし出せるものと期待しています。
滝口正哉(立教大学特任准教授)
江戸の町の守護神であった神田明神(千代田区外神田)で、例年5月中旬に執り行われる祭礼です。大祭は、山王祭(千代田区永田町・日枝神社)と隔年で行われ、神幸祭や附祭が、大手町の将門塚に立ち寄り、神田、日本橋などを巡ります。108の氏子町会が、早朝から日暮れまで入れ替わり立ち替わり神田明神に宮入し、盛り上がりは最高潮に達します。
江戸城の守護を司った日枝神社(千代田区永田町)で、例年6月中旬に執り行われる祭礼です。大祭は、神田祭(千代田区外神田・神田明神)と隔年で行われ、氏子域は江戸で一番広いと言われています。神幸祭は東京の中心地と呼ばれる主要地を練り歩き、上町の連合では日枝神社の男坂で神輿を担ぎ上げて宮入します。下町連合渡御では、各町の神輿が京橋に集結し、日本橋までの中央通りを100名近い鳶頭の木遣りを先頭に渡御します。
アーツ千代田 3331が生まれてすぐに「3331」を名乗った時から、お祭りと向き合い、いっしょに楽しむ運命は決まっていたはず。試しに、「3331」と手を打ってみてください。これが正しい「一本締め」です。突然、あたりの空気が一変、なにやら賑やかで晴れやかな感じがしますね。アーツ千代田 3331にいろいろな人が出入りし、いろいろと楽しいイベントが生まれることも、お祭りに似ています。少し足を延ばせば上野の山には美術館が建ち並んでいますが、静けさが求められる美術館と違って、ワイワイガヤガヤ、これまたお祭りに似ています。大地の芸術祭(新潟妻有)や瀬戸内国際芸術祭のように、今ごろになってアートの世界もお祭りだと言う人がいますが、千代田はもっともっと古い。東京が江戸であったはるか昔からずっと、毎年、神田祭と山王祭を交互に繰り返して来ました。間違いなくそこから、そのころの人びとが楽しんだアートが生まれました。2013年から回を重ねて来た「江戸・東京のひととまち」展は、アーツ千代田3331の根っこだと思っています。
木下直之(静岡県立美術館館長、神奈川大学特任教授)